ゴアアア〜〜!!
ユキトの放った蒼龍術トルネードが、巨大な渦を巻きながら乱舞する。その巨大な竜巻は激しい勢いを保ちながらハルコとケイスケに向かったのだった。
「な、なんやこのアホみたいにデカイ竜巻はっ!?」
「これは、蒼龍術トルネードか! いや、トルネードにこんな威力がある筈ない!?」
ユキトの放ったトルネードは、渦潮、火の鳥に劣ることのない威力を誇っていた。そして、渦潮、火の鳥すらその竜巻へと飲み込み、遥か空へと拡散させたのだった。
「はぁはぁ……。これが魔王の盾の威力か……」
ユキト自身、自分の放ったトルネードの威力に驚きを隠さずにはいられなかった。しかし、それが魔王の盾の効果だと理解し、術の威力に納得がいった。
(ウワサ以上の力だ。しかし……)
魔王の盾が術の威力を高めるという伝説は本当だった。しかし、同時にこの盾はミスズのいう曰く付きの物であることも理解した。
確かに術の威力は高まった。だが、その代償としてか、身体には多大なる負荷が圧し掛かった。恐らく魔王の盾は、術者の生命力を糧とし、限界以上の術を解き放たせる盾なのだろう。
聖王遺物の一つとはいえ、やはり魔王の名が記された遺物。使用するにはそれなりの覚悟が必要だと、ユキトは自身の体感から悟ったのだった。
「あっ、誰かと思えばアンタはユキト! ウチの依頼をサボって何油売ってるんやと思っとたら、ウチに歯向かうと来たか! ええ度胸しとるで!」
「トルネード。何があったかは知らないが、僕の邪魔をするのなら例え君でも許す訳にはいかない!」
(クッ、この状況、流石にマズイ……)
ハルコとケイスケ、双方の攻撃を緩めることは叶った。しかし、その代わり二人の矛先が自分へと振り向いた。今の自分は先程のトルネードで殆どの魔力を使い切った状態。とてもではないが、世界最強の玄武、朱鳥術士二人を同時に相手する体力はない。
ユキトは正真正銘の窮地に立たされていたのだった。
「もう止めて、二人とも!」
その時、ミスズが3人の間に割り込んだのだった。
「ミスズ!? なんでアンタがその男と一緒におるんや……?」
「なっ、ミスズ!? どうしてお前がここにいるんだ……?」
ミスズの声に反応するハルコとケイスケ。二人の取った態度は多少の違いはあるものの、ミスズがこの場所にいることへの驚きだった。
「見張りの人達をだまして井戸に入ったのは悪いことだと思ってる。でも、わたしはお母さんとお父さんがケンカするの見たくなかったから! だから、だからっ……」
「ミスズ……」
「ミスズ……」
嗚咽交じりの声で必死に二人を説得するミスズ。その悲痛な叫びに、ハルコとケイスケは心を鎮めたのだった。
「まっ、しゃーない。ミスズがそこまで言うんやったら、これ以上は何もせえへん」
「ミスズ、分かったよ。でもお前がどうしてここにいるんだ?」
「うん、それはね……」
ミスズは、ケイスケに事の一部始終を語った。エル=ファシル滅亡後、必死の思いでモウゼスへ辿り着いたこと。そこでハルコの子供としてかくまえながら日々を過ごしたこと。そしてユキトと再会し、共に魔王の盾を取りに行ったことを。
「そうか……。ハルコ、君が今までミスズを守ってくれたのか。ありがとう……」
「アンタからそないな言葉聞けるとは夢にも思わんかったわ。ま、元々魔王の盾には興味あらへんかったし、その盾はアンタラにやるわ。その代わり、この街からは出て行ってもらうで」
「そうしたいのは山々だが、国が滅びた今、僕の行くべき場所はない」
「そうだな……。ケイスケ王、これは俺の提案だが、ローエングラム候ラインハルトを頼ってみてはどうだ?」
「ローエングラム候ラインハルト? あの噂に名高い”金髪の小僧”か」
「ああ。あの方ならきっと、王を快くかくまってくれるだろうよ」
「……。分かった、君の言う通りローエングラム候を頼ろう」
ユキトの提案にケイスケは暫く思い悩んだが、決心してラインハルトの元へ向かうことを決意したのだった。
「それでハルコ、俺との約束は……」
「形はどうあれ、ケイスケがモウゼスから出て行くなら、約束通り協力したるで。で、そういうアンタはどうするんや? イゼルローンに戻るんか? それともケイスケと一緒に行くんかいな?」
「そうだな。王の安全も兼ねてローエングラムに向かう」
「それなら安心や。ミスズのこと頼んだで」
「えっ、お母さん、どういうこと?」
「ミスズ、アンタはケイスケやユキトと一緒にローエングラムに向かんや。それがミスズにとって一番いいことや」
「……。うん分かった。わたしユキトさんとお父さんと一緒に行くよ」
このままモウゼスに留まるか、それともユキト達と共に行くか思い悩んだミスズだったが、ハルコの言葉に従い、共にローエングラムに向かうことにしたのだった。
「ほな、さいならや。また今度、どっかで会おうで〜〜」
こうしてユキト、ミスズ、ケイスケの3人はハルコと分かれ、ローエングラムの地を目指すのだった。
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SaGa−30「戦え! まじかる☆魔物ハンター」
「はえ〜〜、ようやく着きました〜〜」
陸路をオーディン経由で向かい数日、サユリとマイはようやくリヒテンラーデへと辿り着いたのだった。
「サユリ、これからどうする……?」
「そうですね。今すぐにでもリヒテンラーデ公にお断りの旨を伝えたい所ですが……」
リヒテンラーデ公は兄であるローエングラム候より階級が上な存在。今回の話は、言わば部下の妹を君主が向かい入れるようなもの。故にリヒテンラーデ公も簡単には引き下がらないだろうと、サユリは道中考え続けていたのだった。
「サユリ、面白いお触れが出てる……」
「はぇ、これは?」
マイが指差した方向にある立て札を、サユリはマジマジと見つめる。
「どうやらリヒテンラーデで催される武術大会の案内のようですね……。! マイ、いいことを思い付きました!!」
そう言い、サユリは小声でマイに話しかけてみた。
「うん、悪くはないと思う……。でもそのままの名前だと正体が分かる……」
「それもそうですね。その辺りは工夫してみましょう」
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「さあ! ついにやって参りました、リヒテンラーデ総合武術大会! この大会はその名の通り、武器でも術でも何でもありの大会です! メンバーはセコンドを含めた最大で6人まで参加でき、先に相手のチーム5人を倒したチームの勝ちとなります! 尚、万が一相手チームのメンバーを死なせてしまった場合はその場で失格となりますのでご注意下さい!
さてさて、栄光の勝利を勝ち取るのはどのチームか!? 熱き戦いの行く末をとくとご覧あれ!!」
熱狂的なアナウンスと共に、リヒテンラーデ総合武術大会の幕は切って落とされた。世界のあらゆる所から集まった強者共が、己の全技量を振り絞って戦う様には、観客の誰もが熱中し、歓喜の声を上げて止まなかった。
「……さて、続いての試合は! 青コーナー、超肉戰隊マッスル5! 対する赤コーナー、まじかる☆魔物ハンター!
超肉戰隊マッスル5はその名の通り、屈強な肉体を持つ男達5人のチームだ! 対するまじかる☆魔物ハンターは何と女性のみ2人のチーム! 大会はチームの上限は定められていますが、最低人数は一人以上としか定められていません!
しかぁし、チームの勝利の為には多人数参加が必定! この大会に女だけ2人で出場とは、この上なく無謀だぁ〜〜!!」
「あははーっ、言われたい放題ですね〜〜、マイ」
「他に人がいないから、仕方ない……」
総合武術大会に無謀にもたった2人で挑む少女達。その少女達は言うまでもなく、サユリとマイだった。
「あははーっ、言いたい人には存分に言わせておきましょう。戦いは数を揃えれば良いという訳ではないことを、皆さんにも思い知らせてあげましょう!」
「分かってる……。でも、この名前はどうにかならなかったの……?」
正体がバレないようにと、サユリとマイはそれぞれ大会用の偽名を使用した。サユリはまじかる☆さゆりん、マイは魔物ハンターマイ。どちらもサユリが考えた名前だが、マイは何だか恥ずかしかった。
「あははーっ。サユリは魔法専門ですし、マイは魔物討伐に長けた剣士ですので〜〜」
「あまり理由になってない気がする……」
そう思うマイであったが、逆に奇抜な名前の方が正体を隠すのに好都合の面もあると思い、マイは半ば腑に落ちていなかったが、魔物ハンターマイの名で戦う覚悟を決めたのだった。
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「さて、超肉戰隊マッスル5の先鋒は、マッスルピンク! 対するまじかる☆魔物ハンターは、副将魔物ハンターマイ!」
「ンフフフフフ、神よ、私は強く、そして美しい! さあ、お嬢さん達、このマッスルピンクが軽く葬って差しあげるわ!」
マッスル5の先鋒は、鍛え抜いた己の肉体に自惚れする男だった。
「キモイ……。とっとと始末する……」
「あははーっ、筋肉を鍛え上げた人達にはモ〜ホさんが多いって聞きましたけど、本当なんですね〜〜」
「なぁんですって〜〜! このアタシの筋肉をバカにするなんてぇ〜〜! これだからオンナはキライなのよ! オンナはっ!」
「おおっと、試合が始める前から両者は既に緊迫状態だぁ〜〜! では、バトルファイト、開始!!」
アナウンサーが試合開始を口ずさんだ直後、審判者の正式な開始合図が出され、試合は始まった。
「その美しい顔をボコボコにしてくれるわ!」
先攻はマッスルピンクだった。マッスルピンクは己の鍛え抜かれた肉体を生かした突進攻撃で、マイに向かって襲い掛かった!
「あれ……?」
しかし、マッスルピンクが向かった先に、マイの姿はなかった。
「遅過ぎる……」
「がふっ!」
マイは素早い動きでマッスルピンクの攻撃を交わし、上方からみね打ちを食らわせたのだった。
「おおっと、強い、強過ぎる、魔物ハンターマイ! その素早き動きは、正に魔物を狩るハンターの動き! 屈強な肉体のマッスルピンクをたった一撃で狩り取った〜〜!!」
屈強な男と可憐な少女の対決。会場にいる誰もがマイが敗北し、清楚な肉体が汚れ行く様を妄想していた。しかし、結果は違った。実際の勝負は、マイがたった一撃でマッスルピンクを打ち倒したのだった。
そのあまりに予想外の展開に会場は動揺しながらも、次第に熱狂に包まれていったのだった。
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「さて、試合はいよいよ大詰め! 超肉戰隊マッスル5は主将マッスルレッドを残すのみ! 対するまじかる☆魔物ハンターは、魔物ハンターマイ。ここまで何と4人勝ち抜き! このままマッスルレッドを打ち倒し、5人抜き達成となるか!? それとも、主将の意地を賭けたマッスルレッドが勝利するのか!? この勝負、目が離せません!!」
「よくもオレ様の仲間をギッタギッタのメッタメッタにしてくれたな! 今度はオレ様がてめぇ等をギッタギッタのメッタメッタにしてやるぜ!」
「サユリの手は煩わせない……。あなたも私が倒すっ……!」
「試合開始!」
審判の宣言と共に、互いのチームの雌雄を決する戦いが始まった!
「先手必勝! 一撃で仕留めるっ……!」
「オレ様達マッスル5は、限界まで肉体を鍛えた超肉集団! だが、オレ様は他の4人とは一味違う! 炎よ! 燃え盛る火炎の勢いの如く、かの者を動かせたまえ! ハードファイアー!!」
「!?」
マッスルレッドは自らに素早さを上げる朱鳥術ハードファイアーを唱えた。相手は体術専門だと思っていたマイは意表を突かれ、急に素早くなったマッスルレッドに攻撃をかわされてしまった。
「ハッハッハ! オレ様は朱鳥術が使えるんだぜ! 炎よ! あらゆる者を目覚めさせる歌声を奏でたまえ! バードソング!!」
勢いに乗ったマッスルレッドは、続け様にあらゆる者を深い眠りから目覚めさせる朱鳥術バードソングを唱えたのだった。
クォッケコォッコォオオオーー!!
「くっ……」
あらゆる者を目覚めさせるバードソングの奇怪な超音波は、マイの鼓膜に少なからず影響を与え、マイは動きを鈍らせてしまった。
「イヤーーッ! サミング!!」
マイの動きが緩んだ隙を突き、マッスルレッドは体術技サミングで、マイを暗闇状態にしたのだった。
「朱鳥術を唱えることで相手を動揺させ、続けてバードソングで相手を混乱させ、そしてサミングで相手を暗闇状態にする! マッスルレッドの見事な連携プレーに、今まで一撃もダメージを与えられることのなかった魔物ハンターマイが、ついに相手の一撃を受けた!」
「ハッハッハ! 視力を奪われては自慢の剣技も役には立つまい。この勝負、もらった!!」
「なかなかやる……。けど、術を使えるのはあなただけじゃない……! 風が運びし花の香りよ、我に立ち向かいし荒ぶる者共に暫しの安らぎを与えん! ナップ!!」
意気盛んにマイに止めを刺そうとするマッスルレッド。視力を奪われ絶体絶命かに見えたマイは、起死回生の蒼龍術ナップを唱えたのだった!
「な……なんだ……急に眠気が……」
ドタン!
マイの唱えたナップの直撃を食らったマッスルレッドは、その場に倒れ込むように眠り出したのだった。
「何とっ! 術を唱えられるのはマッスルレッドだけではなかった! これまで剣技のみで戦い続けた魔物ハンターマイも術使いだった! 流石のマッスルレッドも、自らが眠らされたのではバードソングも効果がない!
形勢は一気に逆転! マッスルレッド有利かと思えた戦況が、一気に魔物ハンターマイに傾いたぁっ!!」
「あなたは、なかなかやった……。だから最後は敬意を表してこの剣で止めを刺してあげる……。地走り!!」
「んがふっ!?」
マイは眠り込んでいるマッスルレッドに対し、大剣技地走りを食らわせた。地走りの一撃により、マッスルレッドはあえなく撃沈したのだった。
「勝ったぁ〜! 魔物ハンターマイ、見事にマッスルレッドに勝利! しかも、5人抜き達成だ〜〜!! 屈強な男達を相手に一歩も動じなかった美しき狩人、魔物ハンターマイに盛大な拍手を!!」
こうしてマイの活躍により、まじかる☆魔物ハンターは見事初戦を勝利で飾ったのだった。
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「さて、熱狂冷め遣らぬ中、いよいよ武術大会も決勝戦を残すのみとなりました! まずは青コーナー、我等がリヒテンラーデ期待の星、公爵直営軍団の選りすぐり兵士で構成された地獄の壁だ! そして赤コーナーは僅か少女2人組のまじかる☆魔物ハンターだ!
地獄の壁の決勝進出は誰もが予想したことでしょう。だが! か弱き乙女2人のまじかる☆魔物ハンターが決勝まで生き残るとは、誰が予想したでしょうか!?」
「あははーっ、リヒテンラーデ公直営軍団が決勝戦まで生き残るということは、この武術大会は当初からリヒテンラーデ公の名を世に広める出来レースだったのですね〜〜」
「フン、言いたいだけ言え! 最後に笑うのは俺達地獄の壁よ! 我等リヒテンラーデ地獄の壁の厚さを思い知れ!!」
「さあ、泣いても笑っても、これが最終試合! 地獄の壁、先鋒は屈強な斧使いダンデライオン! 彼の手から繰り出されるトマホークに多くの挑戦者が葬り去られた!
そしてまじかる☆魔物ハンターは、ご存知副将魔物ハンターマイ! 驚くべきことにここまで全戦全勝! 無敵不敗の狩人ここにあり! その勢いに乗り獅子をも狩るのか!? それとも逆に食われるのか!?」
「ヘッヘッヘ、なかなか可愛い嬢ちゃんだぜぇ〜。ワシのトマホークでその服をビリビリに引き裂いでやるぜ! グッヘッヘ!!」
「私の名はマイ、魔物を討つ剣……。あなたもこのバスタードソードの餌食にするっ……!」
両者が睨み合う中、ついに決勝戦の火蓋が切って落とされた!
「食らえっ、トマホーク!!」
先手を切ったのはダンデライオンだった。ダンデライオンは右手に掲げた戦斧を、勢いよくマイに投げ付けたのだった!
「そんな大きな斧、当たらない……」
しかし、大振りとなったトマホークを、マイは軽々とジャンプして避けたのだった。
「いくら屈強な鎧に守られていても、強力な一撃の前には無力っ……! スマッシュ!!」
マイは地面へと降りる瞬間、全体重を剣先へと集中させ、大剣技スマッシュを放ったのだった。
「でべろっ!?」
マイのスマッシュは見事ダンデライオンに命中し、ダンデライオンはあえなく敗れたのだった。
「強い! やはり強い、魔物ハンターマイ! たった一撃でダンデライオンを狩り取ったぁ!!
さて、地獄の壁の次鋒は、華麗なカウンターパンチャーナッシング! そのスピードから繰り出されるカウンターに、魔物ハンターマイは堪えられるのか!?」
「フフ、ボクのスピードに付いて来られるかな?」
「スピードなら負けない……!」
両者が睨み合う中、スピード対決になると思われる決勝戦第二試合の幕が切って落とされた!
「フフ、カウンターパンチャーと言っても、何もボクの武器はカウンターだけじゃない! コークスクリュー!!」
ナッシングは鎧を着ているとは思えぬスピードで、体術技コークスクリューを繰り出して来た!
「目には目、カウンター使いにはカウンター技……! 切り落とし!!」
マイはコークスクリューを繰り出して来るナッシングに対し、相手の攻撃を弾き飛ばし、無防備となった相手に一撃を与える大剣技切り落としで対抗したのだった!
「バカなっ!? カウンター使いがカウンター技に破れるだなんて……!?」
マイはコークスクリューをバスタードソードで弾き飛ばし、無防備となったナッシングに切り落としの一撃を与えた。ナッシングはマイの剣によって見事討ち取られたのだった。
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「これで最後……! 払い抜け!!」
「グッ、バカな!? 地獄の壁が崩れる……」
「強い、強過ぎるぞ! 魔物ハンターマイ!! ついに地獄の壁最後の城壁、大将ストレイキャットをも一刀両断した!!」
「はぁはぁ……。さすがに疲れた……」
これで長かった試合もようやく終わる。地獄の壁の大将を討ち取った安堵感により、マイの身体からは蓄積された疲労が一気に押し上がって来た。
「さて、突然ですがここで大会本部からお知らせがあります。急遽この決勝戦はセコンドの参加が認められることとなりました!」
「!? 待って下さい! この大会はセコンドの参加は認められているとはいえ、試合に参加出来るのは5人までな筈です! どうして決勝戦で、しかも大将戦が終わった後にルールが変わるんですかっ!?」
大会本部に必死に講義するサユリだったが、大会本部は耳を貸さなかった。
「そんなっ、いくら出来試合だからといっても、酷過ぎます!」
「サユリが抗議する必要はない……。用は私が勝てばいいんだから……」
「でもマイ、その身体じゃ!」
「大丈夫、大丈夫だから……」
マイは満身創痍の身体を引きずりながら、急遽催されることとなったセコンド戦に挑むのだった。
「食らえっ! スカルクラッシュ!!」
「くうっ……!」
疲労が限界まで蓄積していたマイに、従来の機敏な動きはなく、地獄の壁セコンドマッドブルのスカルクラッシュの前に敗れ去ったのだった。
「ああっと! 今まで全戦全勝、無敵の強さを誇っていた魔物ハンターマイが、ついに地に足を着いたあっ!!」
「マイッ……!」
地面へと倒れたマイの元に、サユリが駆け付けた。
「ごめん、サユリ……」
「ううん、マイは頑張ったわ……。後はサユリに任せて!」
「そしてまじかる☆魔物ハンターは、ついに大将まじかる☆さゆりんの登場だぁっ! 今まで魔物ハンターマイが全勝して来た為、その力は未知数! 果たしてどんな戦いを見せるのかっ!?」
「へっ、大方副将に任せっ切りなヘボ大将だろっ! この試合、我等が地獄の壁の勝利だ!!」
「……。確かに、サユリはマイより強くありません。ですが、卑劣な手段で親友を傷付けた者を、サユリは決して許しません! 覚悟なさい!!」
「ケッ、ほざいてやがれ!!」
真の最終決戦となったサユリとマッドブルの戦い。先手を切ったのはマッドブルだった!
「朱鳥よ、我を守らんが為にその羽を羽ばたかせたまえ! フェザーシール!!」
「なっ、何ぃ! どこに消えた!?」
しかし、サユリが朱鳥術フェザーシールで己の姿を隠した為、マッドブルの攻撃は見事に外れてしまった。
「くそっ、卑怯だぞ! 姿を現わせ!!」
「卑怯? 大将戦が終わった直後にいきなりルールを変えてまで勝利を掴み取ろうとした卑劣な方々に、卑怯などと呼ばれる筋合いはありませんわ! マインドステア!!」
「ぐっ、どこから攻撃を! しかしこんなもので……な、なんだっ!? あ、頭がぁぁぁっ!!」
サユリはフェザーシールで姿をくらました状態で、相手の精神を混乱させる小剣技マインドステアを放ったのだった。マインドステアの直撃を食らったマッドブルは精神を錯乱させ、泡を吹きながらその場に倒れ込んだのだった。
「その混乱の中、卑劣な手段を用いたことを悔いなさい!」
マッドブルが地面へと倒れ込んだ瞬間、周囲に赤い羽が舞い散り、羽の中からサユリが姿を現わしたのだった。
「これがまじかる☆さゆりんの実力なのか!? 相手に全く物理的な攻撃を与えることなく打ち倒したっ!
そして、この戦い振り、何と美しい! 正に戦場に舞い降りた気高き戦乙女だぁっ!!」
「終わりました。マイ、あなたの仇はちゃんと取りましたよ」
「うん……。ありがとう、サユリ。これで私達の優勝……」
「はい。サユリとマイの二人で勝ち取った勝利です!」
こうしてまじかる☆魔物ハンターの完全勝利により、リヒテンラーデ総合武術大会の幕は降ろされたのだった。
…To Be Continued |
※後書き
なんだかんだ言いまして、「ロマカノ」も今回で30話を向かえました。30話と聞きますと随分長く感じるでしょうが、かれこれ3年書いておりますので、そういう意味では確かに長いです。
さて、今回は節目となる話数なのですが、肝心の話は「SaGa−13、14」以来のネタ中心の話となりました。
原作のトーナメント戦はモニカ姫が主人公だと参加することが出来ず、参加チームも殆どがモンスターと、「ロマカノ」とは全然違います。武器でも術でも何でもありという所は共通ですがね。
ちなみに、「地獄の壁」は原作にも存在しますが、「超肉戰隊マッスル5」は私の創作です(笑)。とりあえず初戦で戦う人間のチームと適当に考えた名前です。その割には「地獄の壁」戦より大将戦をキチンと書いていたりするのですがね(笑)。
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